若い頃、美術館にピカソ展を観に行った時の話。会場には絵画教室の人達だろうか? お年寄り複数人が一緒に鑑賞していたのだが、あるお婆さんが「先生、ピカソは色が綺麗ですね、特にこの作品は」と ある作品を指して言った。ビックリして作品を見ると それは晩年の作品だったのだが「そうです、ピカソは色が良いですね」と先生らしき方が答えていて、更に驚いてしまった。
人には好みがあり、晩年のピカソの色彩を好きな人は居るだろうし居ても問題はない。実際そのお婆さんは、晩年のピカソの色彩が好きなのかもしれない。しかし、個人的な好みと絵画としての良し悪しは別の話 だ。仮にも先生の立場なら、ピカソが色彩に長けていない事は理解しているだろう。 では何故先生はそう答えたのだろう? 以下、考えてみた。
①先生もピカソの色彩が良いと思っている
②場所も場所だし、今ここで長々と説明するのを避けた
③生徒さん達には、好きな絵をのびのびと自由に楽しんで描いてもらいたいと考えているから、難しい絵画の説明をしなかった
①は論外。
②は、後日 教室で正しく教えてくれるのであれば、まぁ理解出来なくはない。
③問題はこれである。一見 良い教育方針のように思えるが、実はこの考えが一般の人達が絵画芸術を理解出来なくなっている原因だと私は思っている。
思えば 義務教育の期間中、美術の教科書に載ってる作品は何が良くて歴史に残っているのか、絵画とは何を表現していてどう観るのか、先生は教えてくれなかった。美術の先生が教えてくれたのは描き方などの技法と、時代による様式の違いだった。 確かに、自分の好きなように感じたままに絵を描くのは楽しい。自主的に行う創作活動は、その自由さが魅力であり醍醐味でもある。しかし 芸術はそれだけではない 事を、きちんと教育するべきだ。中核的芸術とは、歴史も知らずに好きな題材を好きに描いただけで出来上がるような、そんな簡単なモノではない。同じように観る方も、何の知識も無く観たのでは本当の良さは理解出来ない。そして、その大事な部分を教えずに来てるために、皆んなに理解されないままなのだと思う。
芸術とは、敷居の高い事象 である。中核的芸術絵画は空間を表現している事や絵画の歴史など、敷居を越えるための知識 を正しく教えて理解してもらった方が、誤解も無くなり また楽さも倍増し、より一層 皆んなに興味を持ってもらえるはずだ。 このテキストが、少しでも中核的絵画芸術について皆が理解する手助けになれば、と思っている。
2022年 記
