エドゥアール・マネの「笛を吹く少年」は、ディエゴ・ベラスケスや浮世絵に影響された作品と言われている。確かに私もそう思うが、浮世絵からの影響が「画面が単純化されて似絵のよう」等 そう単純な事だけではない。「視線の誘導」こそ、この作品を制作するに当たりマネが浮世絵から学んだ事ではないだろうか。
画面右下にマネのサインが斜めに書かれている。少年の影は左足のみ小さく描かれているが、その影はサインと同じ角度である為に、サインに眼をやると影にも目が行くだろう。そのまま影に沿って左斜め上に視線を延ばすと、少年のズボン右脚の黒いサイドラインに繋がる。サイドラインに沿って視線を上昇させると、ズボンのラインは少年の腰で途切れてしまうが、上着の金ボタンが視線の円弧を受け継ぎ、最終的に 少年の顔まで 視線を誘導している。
私がこの視線の誘導に確信を得たのは、上から2番目の金ボタンが上着ではなく、袖口のボタンだったからだ。袖口のボタンならば、もっと袖の端に付いてなければならない。しかしマネは、少年の顔までの 視線の誘導が途切れないように 、あえて上着のボタンと同じ配列で袖のボタンを描いたのだろう。浮世絵に限らず現代でも、絵を描く人とは こういった効果を考えながら制作するものだ。
ベラスケスを始めとする西洋絵画から学ぶだけではなく、浮世絵の視線の誘導の効果に気が付き実践するマネは、本当に絵に対して真剣で絵を理解していた画家だったと思う。
2022年 記
