ベラスケス「ラス・メニーナス」


有史以来数多の絵画が制作されてきたが、あらゆる意味で やはりこの作品に尽きるのだろう。

  ディエゴ・ベラスケス「ラス・メニーナス」

同じ画家からも「絵画の神学」「芸術の原理」とまで呼ばれるこの作品は、ベラスケスの卓越した筆さばきやリアリティのみならず、絵の不思議さ・面白さなど魅力が詰まった絵画 だ。

画面中央下寄りに、王女がこちらに視線を向けてポーズをとっている。王女の傍らにはお付きの女官2人が対をなすように寄り添い、他にも侍女や小人など登場人物は全員こちらに顔や体を向け、私達はさながら舞台でも観ているような感じだ。そして画面左側に、天井まで届きそうな位大きなキャンバスと共にベラスケス本人が描かれている。画家の視線はこちら側(鑑賞者である私達)に向いている為、描かれてはいないがモデルである誰かがこちら側に居るのだろうと想像出来る。

画家は王と王妃を描いている最中であり、画面奥の鏡に王と王妃が映っている というのが定説になっている。しかし こうも考えられる。画家の前には大きな鏡があり、画家は鏡に映っている王女を描いていると。その場合、画面奥の王と王妃は鏡に映ってる姿ではなく肖像画になるだろう。または、画家が見ているのは絵を鑑賞している私達と考えるのも空想的で面白い。 このように画家が描いている人物の違いによって意味も私達の見方も変わってくるが、本当のところは誰にも分からなく想像は尽きない。

そしてベラスケスの筆さばきも魅力だ。ベラスケスは本当に上手い! 鬼のように上手い!! ベラスケスの絵は、描かれた対象物の素材や質感までをも感じさせる位だ。そのベラスケスの卓越した技術は、絵を離れた場所から見ると対象を認識出来るが、絵に近寄るとただの絵の具の集積に見えてしまう王女や侍女のドレスの描き方にも表れている。確かな技術がなければ出来ない芸当だ。

そしてその描き方・筆さばきは、エドゥアール・マネを思い出させる。マネは意識的にかどうかは不明だが、結果的に “絵画は絵の具で作られている” 事を鑑賞者に思い出させた。そしてそれは後続の画家や彫刻家のロダンにも影響を与えモダニズムへと繋がるのだが、ベラスケスはマネよりもずっと早くにこれを成し、マネはベラスケスから多くを学び歴史が続いてきた。時代も国も芸術のジャンルをも超えて、一流は繋がっていると思うとロマンがあって面白い。

次に構図だが、画中のキャンバスはこの作品なみに大きく描かれている。もしキャンバスが小さかったら 又は描かれていなかったら、作品の空間性は間が抜けたものとなり印象が違っていただろう。 描かれた空間に、突然横から空間を遮断するかのように異物が侵入する構図はエドガー・ドガの得意とするところだ。ドガがベラスケスのこの作品を観たかとうかは不明だが「更衣室のバレリーナ」「青い踊り子たち」「風呂から上がる女」等、ドガには同じ効果を発揮した作品が多数ある。そしてドガのこの構図もまた、後続の画家へ引き継がれた。

更にこの作品には、登場人物の視線や明所、人物の手などが作る不可視の構図があり、そういった要素が複雑に絡み合い、作品に深みを与えている。

ベラスケス「ラス・メニーナス」は、場面を読み解く面白さ・技術の確かさからくる実在性・明暗の階調やピント調整から表現される空間性・後続の画家達との構図の関係性など、“観ることによって生じる読み解く作業” が、これ程までに深く複雑で楽しい作品もそうはない。

正に “真正の芸術” と呼ぶに相応しい芸術絵画だ。

2022年 記

検索語を上に入力し、 Enter キーを押して検索します。キャンセルするには ESC を押してください。

トップに戻る