ドガの色彩について


エドガー・ドガは、複数のテキストに記載したように斬新な構図の作品が多い。そしてマティスなど後続の作家がドガから構図を学び、新しい中核的芸術絵画を創った事からも分かるように その構想は正しかった。しかし残念なことに、ドガ本人は新しい中核芸術を創造出来なかったと思う。そして私は、その理由の一つに色彩があると感じている。

ドガは同時代の他の作家同様マネに習い、仕上げのワニスを止めて明るい画面に仕上げた。しかしドガの色彩は、マネとは違って全体的に白やグレーが混じっており、画面は悪い意味で平面的で色彩は濁っている。 扱う色彩に白を混ぜるのは何もドガだけではなくクロード・モネもそうだが、モネとドガとでは作品の構造が違う。

モネは多くの色彩を使い、画中の対象を全て同じ様に描く事で対象と対象の境を無くすのが狙いだ。その為、色彩に白が入っていてもその効果は得られる。更にモネは画面全体を一つにする狙いもあったので、白の混じったフラットな色彩は構想に合っている。

対してドガは画面を分断させたり、矩形の中で一定以上の領域を広く取るタイプだ。しかしそのフラットな色彩が原因で領域の大小は感じられ難く、画面を分断させても抑揚も無く、平面的と言うよりは平坦な作品になってしまっている。 またドガの扱う黒は、マネのような明るい黒でもなければ締まりのある黒でもない。それまで認識されていなかった新しい色彩の黒ではなく、今まで通りの陰影の黒でしかない。ドガは絵の具を薄く溶かし過ぎているのかもしれない。 そして晩年になり、ドガはパステル画を多く制作した。パステルは油絵具のように混色したり薄めたりしない為、色彩は濁ってはいない。その画面は平坦ではなくなり、色鮮やかで美しくなった。しかし一定以上の広い領域を一律に塗るには、パステルは不向きである。パステルは、ドガよりもモネの構想に適した画材だった。

ドガは生涯を通じて古典から学び、写真のような新しいメディアからも構図を取り入れ、普及し始めた電球による新しい陰影に着目し、新しい絵画空間創出の為に 同時代の誰よりも絵画と真摯に向き合った。そして、マネの油彩画と同じくらい物質性を感じさせるパステル画を描き、この時代にして既に赤一色の絵画というアバンギャルドな絵も描いた。作品の構図も斬新だった。しかし彼の扱う色彩と画材は、その構想と合っていなかった。

2023年 記

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