ダヴィッド「マラーの死」


絵画において空間を感じさせるには、普通に考えれば対象を立体的に描くと考えるだろう。長さ・幅・厚みのある立体物を描くことで、確かに その周りには空間があると想像する。陰影を駆使して、本物そっくりに描写する方法を学ぶのはそのためだ。 だが対象を立体的に描く方法以外でも、上下・左右・奥行き又は手前の方向に広がりを感じさせるなら、その作品は空間を表現出来ていると言える。

  ジャック=ルイ・ダヴィッド「マラーの死」

この作品は新古典主義の画家ダヴィッドが、フランス革命の指導者マラーが暗殺された場面を描いた名画である。しかし、当時の事件を描いた歴史画だから名画なのではない。実際この事件を題材にした画家は複数居るが、名画として伝えられているのはダヴィッド作のみだ。当然だが、それまでには無かった方法で空間表現しているから名画なのである。その表現方法とは画面内のデザインを単純化し、一定の領域を大きく取ることで空間の広がりを表現する方法だ。

マラーの背後には微妙に陰影が施されているが、ほぼ単色で一つの大きな領域になっている。そして何も描かれていない領域を ここまで広くとっている作品は、ダヴィッド以前の画家では記憶に無い。人物の描写はダヴィッドが影響を受けたカラヴァッジォ作品のように陰影が強いが、それ以外の白いシーツや緑の敷物、特に茶色の家具はほぼ単色であり、各々が一つの領域となっている。そして、この小さな領域が有るからこそ背後の大きな領域が比較対象から更に大きく感じられ、空間の広がりとして機能する手助けをしている。

この作品の表現方法は、現代人が観ても新しさは感じないだろう。だが それこそが、現代でも使われている表現法だという証だ。そして その方法は、アングル ⇒ ドガ ⇒ マティス ⇒ ニューマンへと引き継がれた表現方法であり、その先駆者はダヴィッドだったと私は思っている。

2024年記

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