セザンヌ「大きな松の木と赤い大地」


私は先のテキスト(ゴッホとマティスの項)で、色面を振動させるのに成功したのはマティスと記載した。しかしマティスとは違う方法だが、セザンヌの画面も揺れ動いている。

  ポール・セザンヌ「大きな松の木と赤い大地」(エルミタージュ美術館所蔵)

マティスのように単色の広い領域ではなく、セザンヌはこの作品に見られるように、対象を細かく分割することによって画面を振動 させている。

画面中央左寄りに太い幹の松の木が立っており、松の葉や地面の植物が繁っている。松の枝は左右に伸びているが、その枝の根元部分には葉が繁ってない為、松の幹はぽっかりと開いた空間の中で周りを緑に囲まれている。 セザンヌは葉や植物を小さなグループの集積として描いている。そしてそのグループは筆の痕跡が認められるような重ね塗りとなっており、一つのグループの中で振動しているようにも観える。 またグループ毎に色が微妙に違っていて 且つ隣接している為に、振動したグループ同士で共振し合い、最終的に松の木を囲うように画面が揺れ動いている。そしてその揺れ動いている画面の中にあって、松の木は振動に負けないようにあえて輪郭線はしっかりと強い色彩で描かれ、青や緑の振動にも揺れ動くことなく確かな存在として力強くそこに在る。対照的に描かれた不動の松と振動する緑が、お互いに生かし合った画面 となっている。

ところでこの作品をよく観ると、画面の四方は塗り重ねがない。画面を振動させるような塗りとはなっておらず、下塗りのままだったりキャンバス地が見える部分すらある。その為、松の木を取り囲むような振動は物理的なキャンバスの縁手前までとなっている。 現代はパソコンやスマホで簡単に画像処理が可能だ。この振動してない四方を画像処理でカットし、振動している植物をキャンバスの縁まで到達させてみると、画面は窮屈な感じがして揺れがセーブされてしまうのが分かる。つまり この四方の抜けの部分こそ大事であり、その部分があるからこそ葉や植物が大きく振動 している事になる。 そしてこの四方の描き方から生まれる効果は、分析的キュビスムやポロックの四隅や四方の処理方法として受け継がれている。

2023年 記

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